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作者 瑠璃蝶々 原作 名探偵コナン
ジャンル 恋愛,日常,未来
カップリング コナン-哀(中学生or高校生)
掲載 2007/08/23(Thu.) 更新 -
空一輪


















梅雨の晴れ間の 空が咲いた












    空一輪 (そら いちりん)


















「わぁ、哀ちゃん。それ、新しい傘?」

「ええ…」






少し落ち着いた感じの水色をした 新しい 細身の傘




この姿になって 博士のもとに転がり込んでからすぐ
遠慮する私に構わず 笑顔で揃えてくれた日用品の中に 一本の傘があった

もう何年もの間 大切に 大切に使っていたのだけれど…






「…前の傘が、破れてしまったの。それで…」






週末の外出先で 風に煽られた傘の露先が 私の傘に突き刺さり
古くなって生地も傷んでいた所為か 穴があいてしまった

小さな目立たない穴だったし そのままでも特に支障はなかったのだけれど…






「そうなんだ…。でも、いいなぁ〜。すごくお洒落。それに、哀ちゃんによく似合ってるよ」

「私に? ……そうかしら……?」

「うん! 哀ちゃんは、洋服も小物も、大人っぽいのが似合うもんね。羨ましいな〜」



『大人っぽい』に、純粋に憧れる年頃の親友に、思わず笑みを零した哀は素直に礼を言う。



「有難う。……ところで歩美ちゃん、時間はいいの?」

「あ…っと、いけない。もう行かなきゃ…! じゃあ哀ちゃん、また明日ね!」

「ええ、また明日」

「バイバ〜イ!」




大きく手を振りながら委員会の教室へと駆けてゆく歩美に、手を振り返し、家路につく。
今朝は上がっていた雨が、先程からまた降り出していた。


















暫く歩いてゆくと、軒先で雨宿りをしている人影が目に入った。
哀に気づくと、眼鏡の奥で悪戯っぽく微笑み、片手をあげて「よぉ」と話しかけてくる。




哀が大切に使っていると知っていた、前の傘を破ってしまい、平謝りした少年。



気にしないでという言葉には耳も貸さず、近くの店へ駆け込んだと思いきや
この傘を手に戻り、少し困惑した表情の哀に「気を遣わなくてもいいのに」と言われ

「博士はよくて、オレからのは受け取れねーのかよ…」

拗ねたような顔をして、そんな子供っぽい台詞をポツリと言い、哀を思わず苦笑させた張本人。








「……こんな所で何をしているのかしら?」

「見れば解るだろ? 雨宿りだよ」

「この季節に授業をサボって抜け出すのなら、折り畳み傘の一つくらい鞄に入れておいたら?」

「あれ、好きじゃねえんだよ。意外とかさばるし、小さいから濡れちまうし」

「…それで結局雨宿りしていれば、世話無いと思うけど」

「いーんだよ、オメーのがあるんだから」


そう言うと、コナンはするりと傘に入り込み、「ホラ、貸せよ」と哀の学生鞄をとった。

過ぎていった年月の間に、いつのまにか付いていた身長差の分だけ、腕を上に伸ばし
「仕方のない人ね」と苦笑しながら、また雨の中を歩き出す。
















「……良かった」








雨音だけが聞こえる住宅街を通りながら、コナンがぽつりと言った。




「? ……丁度私が通りかかって、濡れずに済んだから?」

「いや、そうじゃねーよ。
 …ま、そりゃあ確かに、アテにはしてたけどな。あそこで待っていれば、お前が通るのは解ってたし。
 けど……良かった、ってのは、そういうんじゃなくてさ……」

「……じゃあ、何?」

「この傘だよ。…あの時、ちょっと困ったような顔してたろ? 強引に押しつけちまったし。
 だから、もしかしたら遠慮して、普段には使ってくれねーかも…なんて、考えてたんだ。
 けどさ、今朝、これ持ってきてただろ? …嬉しかったんだぜ?
 あの時、これなら絶対お前に似合う…いや、お前だからこそ似合うって、そう思って選んだからさ…」

「……え……?」


思いがけない言葉に、哀は隣を仰ぎ見た。
照れくさそうな、それでいて慈しむような目で、コナンは哀を見つめている。


「やっぱ、よく似合ってるぜ? 思った通りだ。………使ってくれて、サンキューな」






自分の頬が染まっていくのを自覚した哀は、少し動揺しながら視線を外して、俯いた。


時折―――こんな、ふとした瞬間に、まるで年齢相応の少女のような反応を見せる恋人の肩を
露先からこぼれ落ちる雫で濡れないように、コナンはそっと引き寄せる。









落ち着いた色あいが お前に似合うだろうと思ったのも 勿論なんだけど
これを選んだのには 実はもう一つ もっと大きな理由があるんだよな




ぐるりと見渡した売り場で この傘に目を引かれ 手に取り開いてみた時
まるで 梅雨の晴れ間の 雨の名残を残した空のように思えて


涙を零した後でふわりと笑った時の お前みたいだって ふと思ったからなんだ






けど そんな事を正直に言ったら
実は意外と照れ屋なお前は 当分これを使ってくれねーかもしれねえから


――――――今はまだ オレだけの秘密にしておこう
















「……有難う……」

「え……?」

「………本当は………嬉しかったの………」








あまり素直ではない恋人の、素直な気持ちを思いがけず聞けたコナンが、今度は驚きに目を見開いた。
そして、嬉しそうに笑みを浮かべて立ち止まり


「……哀……」


優しい声に、哀がそっと顔を上げると、ふわりとした口づけが降りてきた。












この傘はあなたが選んでくれたから それだけで 本当にとても嬉しかったのだけれど

突然起こったアクシデントの所為で あなたに気を遣わせてしまったのは事実だから
『ありがとう』と喜んで 素直に受け取ってしまってもいいのだろうかと 少し躊躇った


それでも―――結局受け取ってしまったのには
あの時の あなたの言葉以外に 実はもう一つ理由があるの




差し出された この 落ち着いた空色をした傘を見た時
まるで 穏やかに晴れた空がよく似合う あなたのようだと思って


押し潰されそうにどんよりとした空 冷たく降りしきる雨の中に一人でいても

梅雨の晴れ間の 穏やかな色をした空の下で あなたと一緒にいるような
そんな気持ちになれるかしらって ふと思ったから






でも これは ―――――― 今はまだ 私だけの秘密






















雨の中に咲いた、一輪の空の下

それぞれに、ささやかな秘密を胸に抱きつつ、肩を寄せあい歩いてゆく。












出会ってから何度目かの夏が、梅雨空の向こうからもうすぐやって来る。












     END






  《 あとがき 》


サイト開設日の近い『ROOM238へようこそ』様より、2周年合同企画のお話を頂き
お題競作をさせていただきました。
『梅雨』のお題で書きました、中学生or高校生コ哀のお話です。
明記はしていませんので、お好きなほうの設定でお読み下さいませ(^^)

幾つかのお題候補の中から、季節柄を考慮して、「じゃあ『梅雨』で」とは言ったものの。
まー全然思い浮かばなくて(苦笑)ちょっと焦りました(^^;)
―――そんな折、友人の結婚式に出席しまして、カタログ形式の引き出物を頂き
「何にしよっかなー♪」とぺらぺら捲っていたら、水色の傘を見かけました。
梅雨のどんよりとした空の下、まるでそこだけ青空が咲いたようなイメージがぱっと浮かび
さぞかし綺麗に見えるだろうなぁと思ったら、この話を思いつきました。
…や、実際に頼んだのは他の品物なんですが(笑) 私じゃあ似合わないし(笑)

私的に、コナンのほうが『青空』的なイメージは強いです。
だからこそ、空の色を携えた傘は、哀ちゃんに差してほしかったのです。


SSGI - 管理人 Tommy6より

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名探偵コナン
ジャンル:恋愛,日常,シリアス,イベント
カップリング:コナン-哀,新一-志保
キャラクター:江戸川コナン,工藤新一,灰原哀,宮野志保,毛利蘭,鈴木園子
管理人 瑠璃蝶々
取扱作品 名探偵コナン,遙かなる時空の中で,サクラ大戦
コメント -Tommy6より-
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